メセン類
「メセン類」とは、ナデシコ目ハマミズナ科に分類される植物の総称です。
「イヌ科」や「ネコ科」などは聞いたことがあるでしょう。植物も同様に多くの「科」に分類され、その上には「目」、下には「属」、その更に下には「種」という分類階級が置かれます。ナデシコ目は大きなグループで、その名の通りナデシコを含むナデシコ科、多肉植物で最も有名であろうサボテン科、マダガスカル有刺雑木林を形成するアルアウディア属を含むディディエレア科、雑草のスベリヒユで有名なスベリヒユ科、食虫植物のウツボカズラ科やモウセンゴケ科などと非常に多様な形態をもちます。
ハマミズナ科の植物の大半は南アフリカ共和国に固有で、ここはメセン類の楽園です。
メセン類の形態
ハマミズナ科に分類される植物も多様な形態をもちますが、やはり最も有名かつ人気があるのはコノフィツム属/Conophytumの植物たちでしょう。彼らは時に「生ける宝石」とも呼ばれ、その形態は非常に独特です。
上の植物の学名はコノフィツム・マウガニー・ラツム/Conophytum maughanii subsp. latumで、葉の上部が半透明の「窓」になっておりまさに宝石です。球状の身体の正体は2枚の葉が融合したものであり茎ではありません。茎は存在するものの非常に短く、引っこ抜いてみても球体から直接根が生えているように見えますが、種類によってはある程度明確に枝を伸ばすものも存在します。他の植物の葉や茎を極端に短くコンパクトにしたものがコノフィツム達なのです。
コノフィツムは100種以上、その下の分類階級である亜種や変種を含めれば更に多くの種類が存在し、上記のように身体に「窓」があるもの、毛が生えるもの、斑点があるもの、群生して育つものなど多様です。花も昼咲きから夜咲きまであり、昼咲きは香りはないものの見た目が鮮やか、夜咲きは見た目はあまり派手ではないもののよい香りがある傾向があります。
彼らコノフィツムは主に南アフリカ西部の冬に降雨がある地域に自生し、暑い夏には強い日光から身を守るため、乾燥した古い葉を皮のように纏い休眠します。そして秋に涼しくなるとその皮を脱ぎ、まるで「脱皮」するように成長するのが特徴です。
2枚の葉で球形の身体をつくるメセン類はコノフィツム属以外にも存在します。最も有名なのはリトープス属/Lithopsでしょう。南アフリカ西部に分布が集中するコノフィツムに対してリトープスはより乾燥する内陸部にも分布が広がっており、夏に降雨がある地域に分布する種も存在します。
見た目はコノフィツムに似ているものの、リトープスは古い葉を皮のように身に纏うことはありません。
メセン類には塊根を形成するものや潅木状に育つものもあります。全体的にコンパクトにまとまる種が多いですが、潅木状のものはそれなりに大きくなります。
葉の生え始めがうさぎの耳のようだったり、爬虫類の肌のようなイボで覆われていたり、石英のような白い肌をもっていたり、水滴のようなキラキラした細胞(bladder cell)で覆われていたり…集めれば集めるほど面白くなっていきます。
いわゆる「マツバギク」もメセン類で、「松葉“菊”」の名の通りメセン類は菊のような可愛らしい花を咲かせるものが多いです。食用として売られているアイスプラント/Mesembryanthemum crystallinumも同様にメセン類になります。
実は、日本にも自生していて食用にもされるツルナ/Tetragonia tetragonoidesもメセン類なのですが、これらの仲間に関しては他のメセン類とは似ても似つかず、花弁が存在しない地味な花を咲かせ、後述する果実の形態も全く異なります。栽培されることもほぼないためメセン類であることを知らない方も多いでしょう。
メセン類の果実
メセン類の果実はツルナなどの仲間(核果)を除いてカプセル状になっており、水に濡れると頂部から開く性質をもっています。自然界では雨が降ったときにカプセルが開き、雨粒がそこに落ちることで種子を散布する仕組みです。
このカプセルの形態は属や種によって異なり、種を同定する際の大きなヒントになります。ここでは割愛しますが、カプセル内部の構造にも一つ一つ名称があるのです。
それはそうと開いたカプセルの姿は幾何学的で美しく、これもメセン類の大きな魅力だと思っています。メセン類の多くは自家不和合性(自分と同じクローンの花粉を受粉させても結実しない性質)であるため、この果実を見るためには実生由来の複数クローンを育てて交配させる必要があります。当ショップで販売している種子から複数の株を育て、開花・交配させれば見られるのでぜひ。
メセン類の実生
一口にメセン類の実生方法といっても様々な環境に分布しており、性質も種ごとに大きく異なるため一概にいうことはできませんが、大まかなことを説明しましょう。
メセン類の種子は基本的に細かいため、まず鉢に親株と同じ多肉植物培養土を入れ、表土として赤玉土や川砂の微塵を敷いたあと、そこに播種するのがよいでしょう。水やりは種子が流れないように腰水で行うのが無難ですが、ずっと湿らせ続けているとカビなどで全滅する場合があるため注意です。当方では腰水が面倒なので、土は上記と同じようにしますが定期的に上からシャワーで優しく水をかけるようにしています。微塵の上に更に軽石を軽く敷き、強すぎる日光や乾燥、種子の飛散を防いだりするときもあります。
播種したあとは水浸しすぎず、乾かしすぎずで管理しますが、このときに暗すぎる場所に置いてはいけません。大体の植物にいえると思いますが、あまりに暗いと発芽直後に徒長してそのまま枯れてしまいます。ある程度明るい場所に置きましょう。
メセン類の種子の寿命は基本的に非常に長く、20年前に採取した種子が発芽したとも聞きます。数年でダメになることはまずありません。むしろ採種直後に深い休眠状態になっている場合が多く、播種した1年後くらいに突然発芽し始めることもよくあります。発芽には気温なども関係しているはずです。
数ヶ月経っても発芽しないからといって捨ててしまうのは勿体なく、播種直後にカビていなければ長い時をかけてでもいずれ発芽する、と覚えておくとよいです。
発芽後の生育速度は種類によって大きく異なります。例えばコノフィツムなどは発芽して1年経ってもまだまだ小さいですが、1年も経たずに開花し始めるものもあります。「耐寒性マツバギク」の仲間であるデロスペルマあたりは早い印象です。
たくさんのメセン類
多肉植物といっても色々あり、当方も結構な雑食なので様々な植物を育てていますが、科レベルでいえばおそらく現在所持している仲間で一番多いのはハマミズナ科、つまりメセン類の植物です。生ける宝石コノフィツム、リトープスだけでも様々な種があり、コンパクトで場所もとらないため蒐集する価値があります。逆にニッチないわゆる「草メセン」を集めるのも一興です。
このガイドでメセン類に興味を持っていただけたのなら幸いです。当ショップで販売しているメセン類の種子一覧は「カテゴリ▶種子(分類から探す)▶Aizoaceae/ハマミズナ科(メセン類)」からご覧ください。

